茨城大学大学院・理工学研究科 博士課程 量子線科学専攻

強磁場中で重い電子を発見、近藤絶縁体の磁場中電子状態を解明 ― 理・伊賀文俊教授が純良単結晶試料作製で貢献

その他

概要

東京大学物性研究所の松田康弘准教授、同・小濱芳允准教授、茨城大学理学部の伊賀文俊教授らのグループが、近藤絶縁体YbB12(12ホウ化イッテルビウム)の比熱測定を60テスラまでの強磁場下で行い、強磁場金属相の電子が通常電子の数十倍重いことを発見しました。これは、典型的な多体電子相関効果である近藤効果が強く効いていることの直接的証拠となります。

近藤絶縁体は、希土類(レアアース)元素を含む金属間化合物で、高温では金属ですが、ある温度よりも低温になると絶縁体となる物質です。その研究は1960年代から半世紀以上継続されており、最近はトポロジカル性や中性フェルミ粒子などの新概念が提案されたため再び多大な関心が寄せられていますが、強い電子相関効果のために絶縁体化のメカニズムの解明は十分ではありませんでした。今回の発見では、この物質の有する隠れた金属状態が、強い近藤効果をもつことが初めて立証されました。

本研究において本学の伊賀教授は、YbB12の純良単結晶の作製や微細な研磨など、強磁場下比熱測定に必要な試料を準備、提供しました。現在この近藤絶縁体YbB12の単結晶の育成技術を有しているのは世界的にも伊賀研究室に限られており、光電子分光、強磁場磁化測定、圧力下電気抵抗等多くの研究成果を挙げてきました。本研究でもこの結晶は重要な役割を果たしました。

今回の発見は、絶縁体と金属の違いは何かという古くからあるが、測定技術の進歩により実証できる新しい課題となったという点で新しい固体物理学の問題への貢献であり、近藤効果の役割に新たな理解を与えるものです。近藤効果は典型的な多体電子相関効果であり、非従来型超伝導やメゾスコピック系の量子ゆらぎの理解にも重要です。本研究の成果はこれらを含む広範囲な物質系の理解にも大きく貢献します。


詳細な情報

http://www.ibaraki.ac.jp/news/2018/06/211524.html